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 地地図には載っていない〝町〟が、室戸にはある。通称「港の上」。ネオンがともり始めた薄暮のころ、町を歩く。お街にあるような小じゃれた店もなければ、喧噪もない。しかし、都会を向いて背伸びしたような、田舎町の飲み屋街の風情とも少し違う。昭和の香りが漂う店のドアを開けると、60代のママが愛想良い笑顔を向けてくれた。 

 

 室津港(室戸市室津)に面し、なだらかな坂の上から港を見下ろすことのできる一帯。だから「港の上」。学校のグラウンド程度の広さだが、小路がアリの巣穴のように入り込み、どの路地にもネオン看板が光る。

 

 

 

「昭和」漂う、ネオン街

本物の、

「昭和」がここにある。

「今は想像もできんろうけど、ここらの道という道は人が山ばあおった」

 静かな店内でママの目線が空に向けられた。昭和40年から50年代の初め。遠洋マグロ漁が隆盛を極めた時代。船の出航前や、1~2年の航海を終えた後など、海の男たちが毎日のように路地を埋めた。

 〝町〟のちょうど真ん中辺りの小路が交わる場所は、かつて「決闘が辻」と呼ばれていた。「そんなことも言いよったねえ。肩が当たったとか、ささいなことでけんかになるがよ。そればあ人が多かった」

 

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